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【本(映画)の感想】『スカイ・クロラ』シリーズ 森博嗣による謎多き小説、読後にきっと、もう一度読みたくなる!

公開日: : 最終更新日:2014/08/31 アニメ, 映画, ,

 

ただ、飛び続けたい。

 

 

スカイ・クロラ (中公文庫)

 

(以下敬称略)

 

「スカイ・クロラ」シリーズはミステリー作家・森博嗣による、”推理小説ではない” 小説シリーズ

戦闘機のパイロットとして空で戦う子供達を題材として、世界設定の詳しい描写が意図的に排除された独特の空気感で描かれており、長編5作、短編集1作の全6作からなります。

日本アニメ界の巨匠、押井守監督によって、小説を原作としたアニメーション映画が作られており、映画・小説ともに人気のある作品群となっています。

人気の理由。
それはきっと、作中での謎の多さでしょう。

何が真実で、何が嘘か。どこまでが現実で、どこからが夢か。今話している「僕」とは誰なのか。

読めば読むほどわからないことが増えていきますが、なぜかとても面白いです。
物語をただ追うだけでも面白いのに、謎が増えていくにつれてますます先が気になって仕方なくなります。

わからないけど、面白い。
難しいけど、読みやすい。

そんな不思議な感覚が味わえます。

かくいう筆者も、一通り読んだ際にはどうにも理解できない部分が多かったんですが、2週目でなんとか自分なりの答えを見つけられたような気がします。

 

本記事では、そんな謎多き「スカイ・クロラ」シリーズの魅力をご紹介します。

「スカイ・クロラ」の世界

いつもならここで、物語のあらすじについて触れるんですが……
このシリーズ、明確な起承転結があるわけではありませんので、どうにも難しい。

というわけで、簡単に世界設定をご紹介しましょう。

 

物語は、戦闘機のパイロットとして戦争の戦線に立つ子供達によって語られる。

彼らは「キルドレ」と呼ばれ、子供の姿で永遠に生き続ける存在。
思春期を越えたあたりで成長が止まり、病気や怪我さえなければ、寿命というものは存在しない特殊な人間。

どうしてそんな人間が生まれたのか、作中で語られる情報はほんの僅かである。

「キルドレ」は、繰り返しの過去と膨大な未来を ”自己処理” するために、記憶は曖昧で、昨日のことと昨年のことが区別なく同じように思える。そして、生と死に対する執着が薄く、感情はあるが、通常の人間とは異なった不安定な感覚を持つ。

そんな彼らには、戦争を仕事にするものが多い。

永遠の命を持つ彼らは、なぜ命をかけて空を飛ぶのか。
死と隣り合わせの空で、何を感じるのか。

エースパイロット、草薙 水素(クサナギ・スイト)を中心に、物語は進んでゆく。

 

刊行順?時系列順?

刊行順に並べると、シリーズは以下の6作です。

  • 「スカイ・クロラ」 The Sky Crawlers
  • 「ナ・バ・テア」 None But Air
  • 「ダウン・ツ・ヘヴン」 Down to Heaven
  • 「フラッタ・リンツ・ライフ」 Flutter into Life
  • 「クレィドゥ・ザ・スカイ」 Cradle the Sky
  • 「スカイ・イクリプス」 Sky Eclipse

 

しかし、作品内の時系列順に並べると

「ナ・バ・テア」→「ダウン・ツ・ヘブン」→「フラッタ・リンツ・ライフ」→「クレィドゥ・ザ・スカイ」→「スカイ・クロラ」

となり、刊行順とは少々異なります。
なお、「スカイ・イクリプス」は短編集となっており、物語を補完する8つのエピソードが語られます。

森博嗣は「第1巻である、ナ・バ・テアから読むのが普通」や「どの巻から読んでも良い」と述べているそうですが、筆者は時系列順に読むことを強くお勧め致します

それは、物語のわかりやすさが段違いで異なるからです。
刊行順で「スカイ・クロラ」から読んでしまうと、物語の重要な設定部分に誤解が生まれやすく、混乱の元を増やしてしまいがちです(それをトリックとして楽しめる方もいらっしゃいます)。
筆者もそれで、一週目は大変苦労しました。

時系列順で読んでいったほうが、終盤「スカイ・クロラ」での各登場人物の発言から、物語の構造が見えやすくなるはずです。

筆者のオススメは、時系列順+最後に「スカイ・イクリプス」で補完、という流れですね。

 

「スカイ・クロラ」の謎

作中では、世界設定に関する記述が意図的に排除されていると、冒頭で述べました。

「キルドレ」とは?戦争の相手は?どんな世界?

疑問は尽きませんが、逆に想像の余地が多いためか、見事なまでに透明感があります。

 

舞台はどこ?

実は「スカイ・クロラ」シリーズ、登場人物の名前は皆日本風にもかかわらず、日本を感じされるモノが一切登場しません。

例えば、登場人物は、

函南 優一(カンナミ・ユーヒチ)、草薙 水素(クサナギ・スイト)、土岐野 尚史(トキノ・ナホフミ)、栗田 仁郎(クリタ・ジンロウ)、笹倉 永久(ササクラ・トワ)……

などなど、ちょっとだけ違和感もあったりする日本の名前です。

ところが物語の舞台の多くは、どこかの飛行場、近くのドライブイン、女と会うための屋敷、そして空。
作中のアイテムも、ミート・パイ、ビール、ハンバーガー、ロックやブルース、ハイウェイにバイク、煙草とライター、拳銃……

全く日本という感じがなく、むしろどこか外国のような錯覚を覚えます。

この世界に近いようで遠いような。

「スカイ・クロラ」の世界観、素晴らしいです。

 

何を信じる?

物語は「キルドレ」の一人称視点で語られます。
ところが、彼らの記憶は曖昧で、関心事のない事柄には全く干渉しようとしないため、読者はそんな彼らの断片的な発言と適当な感想から、様々な推測をしなければなりません。

普通の大人も登場しますが、彼らは「キルドレ」について多くを語りません。

おまけに、妄想なのか事実なのかわからないようなことを言い出す人もいて、混乱は加速します。

何を信じるか。

すべてを知るには情報の取捨選択が重要になります。

 

……なんだか難解な小説みたいに聞こえますが、文章はテンポが良く非常に読みやすいですよ。

深いこと考えず物語を追うだけでも、十分すぎるくらい楽しめます。

特に、戦闘シーンのスピード感と臨場感はさすがです。

あと四秒で相手は撃つ。
一、二、三。
右に反転。
同時にラダーもいっぱいに切った。
スナップ・ロール。
目の前に一瞬相手が来る。
右手が短く撃った。
左手がスロットル・ダウン。
両足でラダーを反転。
トルクで振り切ってストール。
やっと、もう一機が来た。
……

「スカイ・クロラ」より抜粋

 

専門用語の説明を文中に挿入しないことで有名な、森博嗣節が全開です。

 

単行本か文庫か

「スカイ・クロラ」シリーズを購入するにあたっての、最大の問題は、単行本版か文庫版のどちらを購入するかということ。

実はこれ、どちらもお洒落な表紙なんです!

以下に、単行本版と文庫版のシリーズを、時系列順に並べてみましょう。

単行本版↓

ナ・バ・テア ダウン・ツ・ヘヴン―Down to Heaven フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky スカイ・クロラ スカイ・イクリプス

文庫版↓

ナ・バ・テア (中公文庫) ダウン・ツ・ヘヴン (中公文庫) フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life (中公文庫) クレィドゥ・ザ・スカイ―Cradle the Sky (中公文庫) スカイ・クロラ (中公文庫) スカイ・イクリプス―Sky Eclipse (中公文庫)

どちらも、カッコイイですよね。

各物語で主軸となる空の色が、そのまま表紙のカラーになっています。
単行本は広がりのある空の写真をバックに、文庫では単色をベースにしています。

各表紙には、詩が書かれており、その文句も違うんです。

ちなみに筆者は、シンプルで美しい(お値段も安い)文庫版を買いました。

筆者のお気に入りの詩は、文庫版「フラッタ・リンツ・ライフ」の、

ただ、飛び続けたい。
僕が僕であり続けたい。
生きているかぎり。

心に染みます。

 

アニメーション映画「スカイ・クロラ」

監督は押井守。
「機動警察パトレイバー」や「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」など数々のアニメ映画を作製し、日本アニメ界を牽引してきた巨匠。

映画作製当時は、「スカイ・クロラ」と「ナ・バ・テア」しか刊行されておらず、作中の設定は小説と異なる点も多い。

考察を行う際は、小説とアニメ映画は別物として考える必要があります。

スカイ・クロラ (通常版) [Blu-ray]

映画版も小説同様、作中での説明は僅かで、多くの謎が残るよう作られています。

当時かなり大々的に宣伝がなされており、”なんだか面白そうな映画” という軽い気持ちで見に行った、押井守も森博嗣も知らないようなライトな観客たちが、よくわからないと首を傾げて帰っていく姿が見られました。

しかし、映画自体はかなり良くできています。

押井守監督の作品にしては衒学的な描写が少なく、演出や細かい台詞回しで観客が一定の解釈ができるよう、より一般向けに作られていると感じました。

物語の細部にこだわると考察にはかなりの労力を要しますが、少しわからない部分があるということを最初から理解して観れば、純粋に物語を楽しめると思います。

小説の雰囲気を踏襲しつつ、二時間で完結する完成度の高い作品を作る、その手腕はさすがですね。

 

「スカイ・クロラ」

感動。繊細で物悲しい。厭世的。理解できない。平和を訴えている。

人によって感想は様々でしょう。

「スカイ・クロラ」シリーズはそれだけ、人々に何かを投げかける力を持った作品です。

是非、その世界に浸ってみてください。

読み終わったら「スカイ・クロラ 考察」で検索すると、熱心な人々がそれぞれに頭を巡らせていて、とても面白いですよ。

きっと、もう一度読みたくなります。

 

 

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